『プリンストンスタイルオフェンス』読書会開催レポート

『プリンストンスタイルオフェンス』読書会
- Back Door to Success – @日本橋MIXER
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2015年1月14日(水)に東京都中央区日本橋にあるレンタルオフィスMIXERのご協力
の元、『プリンストンスタイルオフェンス』(翻訳:塚本鋼平氏)の読書会を開催しました。
講師は、「プリンストンオフェンスのオタク」を自称する五嶋博之氏です。謙遜される御本
人とは裏腹に、当日講師であるの参加者は、バスケットボールのデータ解析や戦術の立
案のプロフェッショナルや、プロ選手もクライアントに持つトレーナーから、クラブチームの
コーチ、選手、育成世代のコーチ、現役大学生まで多岐に渡るメンバーでの勉強会となり
ました。
ピート・キャリルHCの業績について
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冒頭、五嶋氏が愛好するプリンストンオフェンスの代表的なプレー動画が紹介され、学術的
にも非常に優れた業績を収めているプリンストン大学の背景が説明されました。学業で素晴
らしい業績を挙げられている大学であるがゆえに、体育に秀でた選手をリクルートしにくいという
事情もあります。ですが、その中で、同大学のHCであるピート・キャリル氏は非常に素晴らしい
戦績を挙げられました。そのピート・キャリルHCについての紹介から講義はスタートします。
1996年までの30年間、世界屈指の名門私立高の集まるアイビーリーグの名門プリンストン
大学でヘッドコーチを務めていた事、現在でもアイビーリーグの歴代最多勝コーチで、13回の
カンファレンス優勝と11回のNCAAトーナメント出場を果たした実績が紹介されると、参加者
からも感嘆の声が上がります。
※アイビー・リーグは以下の8大学で構成されている。ノーベル賞の受賞者や、
大企業のCEOなど優れた人材を多数輩出している。
ブラウン大学(Brown University
コロンビア大学 (Columbia University)
コーネル大学 (Cornell University)
ダートマス大学 (Dartmouth College)
ハーバード大学 (Harvard University)
プリンストン大学 (Princeton University) –
ペンシルベニア大学 (University of Pennsylvania)
イェール大学 (Yale University)
また、日本でも馴染みのある、NBAサクラメントキングスの黄金時代(Vlade Divac, Chris Webber,
Peja Stojakovic, Doug Christie, and Mike Bibby等を中心としたメンバー。NBA王者のタイトルは
逃したが、NBA史に残る名チームと評価も高い)にはアシスタントコーチとして鮮やかなオフェンスを
導いた手腕などが紹介されます。
また、バスケットボールの殿堂(Basketball Hall of Fame)入りも果たしています。

『プリンストンスタイルオフェンス』の読み進め方についての提案
さて、いよいよ、本題へと入ります。本レポートでは説明しきれない部分もございますが、ま
ず、五嶋氏におけるプリンストンオフェンスの概念と定義づけがなされます。概念としては、
フリーランスオフェンス、セットプレーと、それぞれの特徴を説明した上で、写真図のような
一定の規則や原理原則を持ちつつも、選手個々の発想を主体としながらプレーが続いていく
プリンストンオフェンスの特徴が説明されました。
概念図.jpg
また、Princeton Style Offenseとは、という問いに対して、ご本人の見解を
説明します。それは、
Princeton Style Offenseとは…
「ディフェンスの無力化」を目的として、
「バックドアーカット」に重点を置いた、複数の
「パターン・オフェンスの集合体」であり、
下記の特徴をもつ。 (五嶋の定義)
①4 out 1 in Entry Position(2 Guard, 2 wing, and 1 Center)
②各サブシステムに、バックドアーカットの機会がある。
③Autonomy(自律性)
④Continuity(継続性)
※あくまでも、講師である五嶋氏の定義です。
定義.jpg
その後、そのようなオフェンスシステムを解説している『プリンストンスタイルオフェンス』を
の書籍についての説明に入るのですが、初級者や、馴染みの薄い読者が混乱なく全体像
を把握するために、以下のイメージ図を念頭に持つ事が提唱されました。
書籍の再構成.jpg
その後、そのようなオフェンスシステムを解説している『プリンストンスタイルオフェンス』を
の書籍についての説明に入るのですが、初級者や、馴染みの薄い読者が混乱なく全体像を
把握するために、以下のイメージ図を念頭に持つ事が提唱されました。
そして、下記のような全体図をイメージしてオフェンスへの解釈を図ると、書籍の途中で躓く事
が無く、スムーズに読解が出来るのではと言う提案がなされます。
TLA uni.png
この全体概念図は、勉強会の告知ページ内でも、書籍の読解に試行錯誤した際の五嶋氏の
経験や、五嶋氏がプリンストンオフェンスを勉強する中で教えを仰いだコーチの方からのヒント
をベースに図解されたイラストとなります。
さて、その上で、書籍にも紹介されている様々なシチュエーションでのプレイが順番に紹介されま
す。ここでは、全てのシチュエーションについては説明が出来ませんが、チンと呼ばれるプレーに
ついて、五嶋氏がコーチを務めるチームの映像を元に、詳細の説明がなされました。

全体像の把握、そして、場面、場面での細かなオフェンスパターンと、その中に存在する数多い
選択肢が紹介され、参加者のボルテージも高まってきました。
その後、プリンストンのOBが紹介され、また、各国のナショナルチームでの導入事例、NBAでの
導入事例など、幅広く応用されているプリンストンオフェンスについての議論が交わされ、とても
有意義な時間となりました。
プリンストンの影響.png
(参考)
(top row, left to right)
[David Blatt ’81]
head coach, Dynamo Moscow and the Russian national team;
現、CAVS HC
[Mike Brennan ’94]
assistant coach, American University;
現、American University HC
[Brian Earl ’99]
assistant coach, Princeton;
[Mitch Henderson ’98]
assistant coach, Northwestern University;
現、Princeton University HC
[Armond Hill ’85]
assistant coach, Boston Celtics;
現、LA Clippers Assistant Coach
(bottom row, left to right)
[Sydney Johnson ’97]
head coach, Princeton;
現、Fairfield University HC
[Chris Mooney ’94]
head coach, University of Richmond;
[Craig Robinson ’83]
head coach, Oregon State University;
プレジデント、オバマの義兄‼︎
現、Analyst for ESPN
[Joe Scott ’87]
head coach, Denver University
現、Denver University HC
[John Thompson III ’88]
head coach, Georgetown University.
燃えるような熱い情熱(enthusiasm)でプリンストンオフェンスを追求した人々
上記のように、多くの人を魅了してやまないプリンストンオフェンスですが、それまで、その複雑さ
ゆえに、バスケット界最大の謎と言われ、分析や知識の共有を出来なかった時期もあったようです。
そこに、燃えるような熱い情熱を持った人物が解明へと取り組みます。一人は、ジミー・ティレット、もう
一人は、ジム・バーソンという人物です。
ジミー・ティレットは、プリンストン大学のバスケットボールに強い関心を持ち、毎日6時間、試合のテープを
観て、99ページのメモを残し、そしてそれを35ページにまとめます。それをピート・キャリル氏に見せたとこ
ろ、熱意が認められ、本人から直接に教えを乞う事を許可されたと言われています。
その後、サムフォード大学にてプリンストンオフェンスを採用。24勝6敗という素晴らしい成績を残してNCAA
トーナメントに出場。翌年、1999-2000年シーズンにはNCAAを通じて最高のFG%を記録しました。
また、もう一人のジム・パーソンです。NCAAの歴史に名前を刻む数々の名コーチに直接に教えを乞いに
行った後、ピート・キャリル氏のプリンストン大学へと足を運びます。他の多くのコーチもピート・キャリル氏
のもとに訪れますので、キャリル氏はその他の多くのコーチと同じように基本的な映像と資料を渡された
ようですが、そこから、2年間、独自の勉強を続け、プリンストンオフェンスの解明へと繫げました。
その後、多くのコーチがジム・パーソン氏のもとに教えを乞いに来ましたが、彼は、自分の持っている知識を
隠さずに人に伝える事を心情とし、惜しみなく自らの知識を伝えます。ただし、それは「きちんと下準備をし、
分でできる範囲で勉強している人に限る」という信念もあったようです。
そして、この書籍の作者であるデレク・シェリルダン氏も同様です。何年もの間、プリンストンオフェンスに魅了
された彼は、長い年月をかけて、プリンストンオフェンスの映像を録画する事、各地からテープを取り寄せる事、
同オフェンスシステムを採用しているチームに連絡を取り、テープを取り寄せ、70本近いテープを集めて勉強
をしたと著書の中で語っています。
表面的な情報収集や分析にとどまらない、燃えるような情熱(enthusiasm)によって、プリンストンオフェンスを
解析しようと取り組まれた事が伺えるエピソードです。
翻訳者である塚本鋼平氏(現和歌山トライアンズAC)のEnthusiasm
また、本書籍の翻訳者である塚本鋼平氏も、編訳者の冒頭文にて、秋田県の某高校女子チームを指導していた
事、チームの平均身長は低く、身体能力に劣るチームであったものの、高校生らしく勤勉に一生懸命頑張る資質が
あり、何よりも選手同士に強い絆や信頼関係を持っている事から、選手に対してよりより指導をする為に悪戦苦闘
する中で、プリンストンオフェンスに着目し、プリンストンオフェンスを高校の現場で指導している原作者が書いた、本
書籍の原著に出会ったようです。
塚本氏が高校の女子バスケットボール部を指導する中で、選手たちは自分で考えて練習をするようになったことが
最高に嬉しかったと語っています。目指していた最高の結果が出たわけではないようでしたが、躍進のきっかけを
掴まれた事、塚本氏自身、さらにプリンストンオフェンスに魅了されたと語っています。
その後、本書籍を日本の方々に届けるべく、翻訳、出版へと動き出します。原作者とのコンタクト、出版社との
交渉、書籍の校正作業、並々ならぬ膨大な作業と時間が費やされた事が想像できます。これも、塚本氏本人の
言葉を借りるならば「燃え尽きる事のないバスケットボールに対する、深い愛情と激しく燃えるような熱い情熱」の
賜物であると思われます。
現在、本書籍はamazonなどでも購入できますが、数量が非常に少なく、入手も困難となっています。下記のご連絡
先にお問い合わせを頂ければ、翻訳者である塚本氏本人からの購入も可能です。お気軽にお問合せ下さい。
問合せ先
UPSET片岡
kataoka@upse-emg.com
また、五嶋氏による『プリンストンスタイルオフェンス』の読書会(読み解くための基礎知識やサポート)など、開催に
ご興味のある方は、上記問合せ先よりお気軽にお問い合わせ下さい。
※プリンストンオフェンスを解明しようと奮闘された各コーチに対するエピソードは、本書籍からの引用です。塚本氏
自身、数々のエピソードについては、現在、TKbjリーグ大阪エヴェッサでHCを務めております東頭俊典様より教わった
事が書籍の中に記されています。

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